第10回 患者が行く!研究室訪問 〜国立国際医療研究センター 霜田雅之先生〜(前編)

バイオ人工膵島移植プロジェクトの一環として「細胞加工施設(CPC)」を建設する場所である国立国際医療研究センターで移植方法の開発をされている霜田雅之先生にお話をうかがいました。

霜田先生の研究内容については研究概要書をご覧ください。

なお、本事業は大塚商会ハートフル基金の助成を受けて開催することができました。

目次

(前編)

(後編)

霜田先生からのメッセージ

研究室訪問(前編)

膵島移植について


我々の膵島移植プロジェクトは6年ほど前に採択されて、あと4年くらい続く予定です。それまでの間に一定の成果が出れば、その後も引き続き研究をしていきたいと頑張っているところです。

当プロジェクトは膵島移植という名前のとおり、膵島移植を中心に行うプロジェクトです。実際に患者さんに治療する臨床研究と将来の治療の開発のための基礎的な研究の両方を行っています。

ヒトからヒトへの膵島移植は同種移植と呼ばれます。同種というのは同じ種類の生物という意味で、ヒトだったらヒトからヒト、他人から他人への移植ということです。

同種移植は数十年前から世界的に行われていて、一部の国では保険診療すなわち通常の治療として認められていますが、日本を含む多くの国では、まだ普通の保険がきく診療ではなく、そのひとつ前の段階である臨床研究として行われています。日本では京都大学、東北大学、大阪大学などで膵島移植が行われています。その結果が良ければ保険診療になる可能性があります。

将来は2型糖尿病の方の治療もできると思いますが、現在のターゲットとしては、1型糖尿病の中でも治療の難しい方をターゲットにしています。特に毎日、一生懸命インスリンを調整して打っても、非常に血糖値の上下動が激しい方、最近はポンプやCGMもありますけれども、それでも非常にコントロールが難しい方、特に低血糖をおこす方が対象になっています。

血糖値に合わせてインスリンを自動で出してくれる細胞を移植すると、非常に効果が高ければインスリンが要らなくなることもありますが、今の技術だと、なかなか1回の移植だけでそこまではいきません。2人分、3人分の膵島を移植するとインスリンが要らなくなることもあります。外国では大体2~3人分を移植します。日本だとドナーの数が少ないので、1人の方にかつ短期間に集中して3人分を移植することは難しく、インスリン離脱するまでいく人は少ないのが現状です。

ただし、インスリン離脱まではいかなくても、インスリン補充は続けながら血糖コントロールが非常に良くなります。これはほぼ間違いありません。その検証のために臨床研究をやっているわけですが、外国の例を見ても、日本の今までの例を見ても、血糖コントロールは非常に良くなります。上下動も非常に狭くなり、特に低血糖発作がほとんど起こらなくなります。

 

膵島移植の方法


ドナーが亡くなった瞬間に膵島をいただいて、インスリンを出す細胞だけを取り出し、肝臓の門脈という太い血管内に移植します。
膵島は血管の中をずっと動いていって、血管がどんどん枝分かれして、細くなっていきますので、どこかで停まるのです。とまってからは毛細血管がまわりから入ってきて、合体して生着、つまりそこで生き続けるようになります。生着した場所で門脈の中の血糖値、ブトウ糖濃度を自動的に検知して、それに見合うだけのインスリンを勝手に出してくれます。

通常の臓器移植に比べると手術とも言えないような手術で、細い針をさして膵島細胞を流し込むだけなので、患者さんは手術が終わったあとはおなかに小さな穴が空いているだけです。その穴も勝手にすぐに閉じますので、大きな手術が不要で非常に身体の負担が軽いというのが最大のメリットです。

ただし、移植するのは他人の細胞なので、拒絶反応が起こります。免疫抑制剤という拒絶反応を抑える薬は臓器移植と同じように飲まなければなりません。その副作用などは臓器移植と同じようにあります。

当センターでもようやく数年前から膵島移植を始めました。これは臨床試験としてやっているので、試験が全部終わるまでは外にデータを発表できないので簡単なデータだけでご了承ください。

膵島を移植すると血糖コントロールは改善し、年に1回くらい程度起こしていた重症低血糖(=意識を失う)ことは今のところ1回も起こしていません。無自覚低血糖、夜間低血糖なども以前は頻回に起こっていたのが、今はほとんど起こっておらず、かなり血糖コントロールが良くなっています。ただインスリンは打っています。この同種、つまりヒトからヒトへの膵島移植というものが基本の技術ですので、日本で通常の保険が効く診療にすることが当面の目標です。

この治療にみあう患者さんは限られますが、重症低血糖を頻回起こす方にとっては非常に意義がある治療だと思います。

ヒト膵島移植の細胞加工施設(CPC)

ヒト膵島移植の細胞加工施設(CPC)

膵島移植の2つの課題


ただし、課題も大きく2つあります。

1つはドナーの数に限りがあること。これは膵島移植に限りませんが、臓器移植全体の問題で、待っている患者さんに比べて、臓器提供の数が非常に少ないのです。最大限移植を行ったとしても、待っている患者さんの数には全然見合いません。ドナーの数を増やす努力を各関係者がしていますが、劇的に増えるわけではありません。

もう1つは、他人の細胞を直接移植しているので、必ず免疫抑制剤が必要になることです。他人の細胞や臓器が体内にある限り、半永久的に免疫抑制剤を飲む必要があります。免疫抑制剤の費用、副作用も課題です。最近の薬はだいぶ改良されてきて副作用については、以前に比べるとだいぶコントロールできるようになってきています。我々のところで移植した方も普段は特に何の副作用も出ていません。

 

膵島移植の課題解決策(幹細胞の利用)


そこで、我々も、2つの大きな課題を解決するために2つのことをしています。

1つはドナーに頼らない細胞を用意すること。もう1つは、免疫抑制剤をなくすこと、特に有望視されているのが免疫隔離のためのカプセルで細胞を包む方法です。カプセルの中に移植する細胞を入れ、外から触れないかたちで移植すれば、リンパ球や白血球を寄せ付けない、拒絶反応が起こらないのではないかという研究です。

ドナー以外の細胞源というのは、1つは人間が元々持っている幹細胞と言われているものがあります。各臓器に損傷を受けた場合、その損傷部位を治すためにある程度、どんな細胞にでもなる予備細胞=幹細胞が眠っているのです。幹細胞は膵臓の中にもあると言われているので、体外に取り出して、培養してそれをまた体内に戻す、あとは身体の中にあるまま、何かの薬で増殖させるなどの方法が昔から研究されています。ただ、まだ実用化されたものはありません。最近ではES細胞、iPS細胞というどんな細胞にでも人工的に変化させることができる細胞を用いた研究も進められています。これらの細胞は無限に増殖し、かつインスリンを出す細胞にも人工的に作り変えることができるので、数に限りのあるヒトドナーの代わりになるのではないかと期待されています。

 

膵島移植の課題解決策(ブタ膵島+カプセル=バイオ人工膵島)


無菌ブタ細胞の利用
バイオ人工膵島移植の説明もう1つは、動物の細胞を使うこと。ヒトには限りがあるから、代わりに大量に手に入る動物を使う方法です。特に最近はブタを用いた研究が多いです。医療用ブタと呼んでいる特別なブタから膵島を取って移植するという研究を我々も行っています。

通常、ブタ肉は生で食べるなと言われるように、ウイルスや菌などがたくさんいます。しかしながら、元々は生体ですので、体内は無菌です。無菌環境で飼えば、全くバイ菌もウイルスもいないブタをつくることができます。何十年も生きてきた脳死ドナーは、今は悪さをしていなくてもウイルスや菌などを持っているので、ヒトよりも無菌の医療用ブタのほうが安全とも言われています。

ただし、ブタの遺伝子の中にすでに組み込まれているウイルス、レトロウイルスはいくら無菌環境にしても除去することができません。取ることができないので、増殖してこないか、ヒトに移らないかなどをきちんと見張る必要があります。レトロウイルス以外すべての菌とウイルスを除去したブタを作成することが可能で、そのような研究を日本では明治大学、京都府立大学の先生方がされています。

また、ドナーは病気やけがなどで亡くなった方なので、必ずしも臓器が元気とは限りません。それよりも健康なブタを使った方が膵島自体の活きが良く、機能が高いことが期待されているので、これから検証していきます。

ブタの膵島細胞を利用することへの抵抗感
数十年前からブタ膵島をヒトに移植する研究が行われています。日本ではまだ一例もありませんが、いくつかの国々ではもうすでに行われていて、完璧ではないですが、ある程度の効果があったと報告されています。

しかし、いくら研究者や医師が良いと思っても、患者さんは本当にそんなことをやってくれるのか、心理的な抵抗感があるのではないかと思い、日本IDDMネットワークさんのご協力で数年前にアンケート調査を行いました。回答した約半数の患者さんもしくは家族の方々は、ブタの膵島移植手術を受けてもいいと回答しましたが、これは事前に思っていたよりもかなり高く意外な結果だったので、研究者としても勇気付けられているところです。

アンケート調査をした頃はiPS細胞がニュースなどにも出ていて期待が高かったこともあり、実用化されれば8割近くの方が移植手術を受けてみたいと高い期待感を示していました。

 

カプセルで細胞を包むことで免疫抑制剤不使用を目指す


次に免疫抑制剤をなくすことはできないかという研究で期待しているのは免疫を隔離するカプセルで細胞を包む方法です。何らかのカプセルの中に膵島を入れて患者さんに移植すると、リンパ球や抗体などは中に入ってこられない。そうすると拒絶反応は起こらないのではないかと。カプセルには栄養やインスリンなど小さな分子は自由に通過できるような小さな穴がいっぱい空いています。膵島細胞に栄養は供給できるけれども拒絶反応は起こらないというカプセルを開発中です。

カプセルの素材、大きさなどは様々ですが、マクロカプセルが特に有名です。ES細胞から膵島の細胞を作ってマクロカプセルで包み、患者さんの皮膚の下に埋め込むという治験も行われています。

それから、ニュージーランドの会社が開発したマイクロカプセルです。1mmもないような非常に粒の細かいカプセルの中に、膵島が1個から数個入っているというものです。これは主にお腹の中(腹腔内)に移植されています。

CPC建設予定地の見学

CPC建設予定地の見学

海外で行われた臨床試験の結果


最近アルゼンチンで行われたときの治験のデータが論文で発表され、誰でも見ることができます。松本真一先生が大塚製薬工場に入社されてから行われたものを、まとめて発表されています。

これは簡単に説明しますと、4人ずつの2つのグループに1型糖尿病の患者さんを分けまして合計8名の方に先ほど申し上げたカプセルに封入したブタ膵島を移植しました。2つのグループというものは移植した数が違います。移植膵島数1回目、2回目と書いてありますけれども、グループ1のほうが体重1キログラムあたり約5,000個、グループ2のほうが約10,000個を時間を分けて2回、同じ人に移植をしています。移植をした場所はお腹の中、腹腔内と言われる場所です。免疫抑制剤は一切使っていません。

そうしますとグループ2の患者さんのHbA1cは、手術前が8以上だったものが、かなり長期に渡って6%台で推移しています。グループ1のほうも下がってはいるのですが、やはり多く移植したグループ2の方に効果がありました。重症低血糖は約2年半の間全く無く、無自覚低血糖の回数もグループ2の方が優位に減少したと発表されています。インスリン注射の量は3分の1くらい減ったということです。ゼロになった方はいません。

話が少し飛びますが、ここまでが最新の外国で行われた今の臨床試験の結果です。

これを見て、私もかなり期待できるのではないかと思いました。特にインスリンの量は減って、HbA1cもきちんと下がっているのに、低血糖がなくなっていくというのは患者さんにとって、特に低血糖発作を起こす方にとってはかなりメリットがあると考えました。なので、ぜひ日本でも治験を行いたいという風に考えて、今、大塚製薬工場さんと一緒に研究をしようと進めているところです。

 

ブタ膵島+カプセルによる移植で1型糖尿病の“根治”を目指す
「バイオ人工膵島移植プロジェクト」の全容


これは数年前から日本IDDMネットワークに助成して頂いている日本でのバイオ人工膵島移植プロジェクトの全容図です。バイオ人工膵島とは、ブタの膵島をカプセルで包んで移植するもののことです。企業とやろうとすると、この枠組みとは変わる可能性はありますが、いずれにせよ、日本で行う場合には細胞加工施設(CPC)が必要です。何とか整備したいということで、助成していただいて今は建設に向けて手続きが進んでいます。

それから感染症検査については、日本特有の感染症、感染症検査については日本独自の体制を作る必要がありますので、これも京都府立大学などの先生と一緒に構築していっているところです。これも必ず要るものです。

バイオ人工膵島移植プロジェクトの全体像

 

国立国際医療研究センターで行う理由


国立国際医療研究センターは、国立の厚生労働省の直轄病院の1つです。ナショナルセンターと呼ばれていて、他に国立がん研究センターや国立循環器病研究センターなどが有名です。

当センターは感染症と生活習慣病がミッションになっていますが、他のナショナルセンターにない特色として、あらゆる診療科があります。新しい治療をするときにはどんな副作用が起こるか分かりませんので、あらゆる病態に対処する必要があり、総合病院でやるというのは非常に意味があります。またミッションのうちの生活習慣病というのは糖尿病も含み、糖尿病研究センターで研究が精力的に行われていますし、その部門の1つとして膵島移植プロジェクトもあります。

再生医療なので、細胞調整施設/加工施設というものが必ず要るわけですが、当センターはこれをすでに持って運用しています。ブタ専用の施設は今から作るので、既存のものを使うわけではありませんが、そういう運営方法のノウハウがあるというのは強みのひとつです。また、ブタ膵島の移植をするときには、基本的にはヒト膵島の移植の認定施設でなければできないだろうと思われます。当センターはヒトの膵島移植もやっておりますので、当然、施設認定されています。

 

バイオ人工膵島移植の今後の展開予定


それから話が飛びますが、日本でバイオ人工膵島移植を0からできるようになる前に、既存の製品を用いて、カプセル型ブタ膵島の臨床研究もしくは治験を当センターでやる方向で検討しています。

また、最も早くバイオ人工膵島移植をしようと思ったら、日本にはまだ医療用ブタがいないので、外国にいる医療用の無菌ブタから膵臓もしくは膵島だけ取り出して、それを空輸してくるということが一番現実的です。空輸してきた膵臓もしくは膵島を当センターの中で、細胞加工施設の中で製品化して、それを使って患者さんに移植する研究を行うということを考えています。これが今、最も力を入れている研究のひとつ、バイオ人工膵島の説明でした。

後編へ続く)