活躍する患者たち

世界の舞台で活躍する2人のアスリート

インディカー・シリーズに参戦しているカーレーサーのチャーリー・キンボールさんと、エアロビック日本代表の大村詠一さん。二人とも1型糖尿病を持ちながら、世界を相手に挑戦を続けるアスリートです。その対談が実現しました。
この日初めて会った2人はランチをともにし、「ランチの前に2人そろって血糖チェックをしたんだよ」と、まるで2人だけの秘密を楽しむかのように笑いあいながら、話し始めました。

病気と出会った頃のことについて教えてください。

大村:私は8歳で1型糖尿病を発症しましたが、4歳からエアロビックを始めていたので、病気になったからといって、エアロビックを止めようとは思いませんでした。お医者さんには「激しいスポーツは前例がないから勧められない。」と言われましたが、自分は『アマノジャク』だったので、「前例がないなら自分が前例になる」と思い、エアロビックを続けました。

チャーリー:私は9歳でゴーカート、16歳でレーシングカーに乗り、すっかり『とりこ』になりました。自分自身が運転するか、運転できなければ車のデザインをやりたいと思っていました。大学に進学するか迷いましたがやはりカーレーサーになると決め、1人でヨーロッパに渡りました。
ヨーロッパでは数々の成功を収めましたが、今から4年前22歳の時に1型糖尿病を発症しました。その診断を聞いた時、1番最初にドクターに訊ねました。「これからもレースをやっていけますか?」と。その時ドクターはまっすぐに私の目を見て言いました。「どうして?できない理由なんてはないよ。1型糖尿病の人でも、世界中のいろいろなところで活躍している人はたくさんいるよ。」

大村さんが病気を発症したおよそ20年前は、「前例がない」といわれた1型糖尿病のアスリート。「前例になる」と決めた『アマノジャク』が歩んだ道は、確かに後に続く人に道を指し示す道標になっていました。

2人のアスリートにとって血糖管理は勝負を左右する重要なもの。独自の血糖管理について話が盛り上がります。

大村:緊張すると血糖が上がるといわれていますが、自分の場合は体感として下がる気がしています。ウォーミングアップが長いせいもあるでしょうけど、演技直前まで血糖はどんどん下がります。演技が終わった途端に、緊張感から解放され血糖が上がるパターンなので、演技終了後に追加で注射してコントロールします。

チャーリー:私の場合は、レース前に上がり気味になります。特にストレスのかかるレースでは高くなります。レース中はレーシングカーの中で血糖値が見られるモニターでチェックしています。レーサーはスピード、ラップタイム、ギアなどで自分の車の状況を見ていますが、私はそれに加えて、持続血糖モニターで自分の血糖値を見ています。
レースが始まると途中で食べたりすることはできないので、糖分の入った飲料水を車内に持ち込み、血糖値が下がってきたときは糖分の入った飲料水をとれるようにしています。

血糖管理、低血糖や高血糖の症状、どの話をしても2人は真剣ですが深刻ではありません。糖尿病はチャレンジングとチャーリーさんが言うように一筋縄ではいかない病気です。しかし、それぞれの夢を実現するために、2人とも全てのことに対して努力を惜しみません。糖尿病のコントロールもそのひとつなのです。

同じ糖尿病を持つ患者さんにメッセージをお願いします。

大村:病気を受け入れるのは大変だと思いますが、人に話すことから始めてはどうでしょうか。
私は小学5年生の時に紙芝居を作って自分の病気を友達の前で話したことをきっかけに、楽になりました。自分から言うまでは、どうしてみんなは分かってくれないのかと思っていましたが、言わなければ人には伝わりません。
つらければつらいと言えばいいし、助けて欲しいと言われれば、それをほっておく人はいません。だから、自分の気持ちを素直に話してほしいと思います。そういう話をできる人を見つけることも大切です。

チャーリー:確かに糖尿病という病気自体は簡単なものではありません。チャレンジングで困難はあるけれど、自分の本当にやりたいことを見つけて、一生懸命頑張ってほしいと思います。お子さんに対しても、糖尿病という診断を受けた段階で夢をあきらめてしまわないで、親御さんも希望を持ち続けていただきたいです。
自分でやろうと思ったことを続けていくことは非常に大切で、そうすることによっていろいろなサポートを得られるということを是非伝えていただきたいと思います。自分が糖尿病になったからといって自分の人生は変えずにずっと続けていくべきです。
自分を糖尿病に合わせるのではなく、糖尿病を自分の生活様式に合わせるように持っていけばいいのではないかと思います。

最後に大村さんがいわれた言葉が印象的でした。

大村:僕は高村光太郎さんの言葉が好きです。『僕の前に道はない。僕の後ろに道はできる』この言葉を胸に、皆さんも夢に向かって突き進んで言ってほしいです。エアロビックとカーレーサーのチャンピオンはすでにここにいるので、何か他の分野で頑張ってください(笑)。同じ1型糖尿病、お互いに頑張っていきましょう。

※ノボノルディスクファーマ東京本社にて行われた対談を、取材させていただきました。

 

プロフィール

Charlie Kimball チャーリー・キンボール

アメリカ最高峰フォーミュラカーレース「インディカー・シリーズ」に参戦しているレーサー

チャーリー・キンボール選手

1985年生まれ
1994年 9歳でレースゴーカートを始める
2004年 イギリス・フォーミュラフォード・チャンピオンシップに参戦、優勝2回
2005年 イギリス・フォーミュラ3・インターナショナルシリーズに参戦、優勝5回
2006年 フォーミュラ3・ユーロシリーズ(オランダ)で優勝
2007年 ワールドシリーズ・バイ・ルノーに参戦、シーズン途中に1型糖尿病発症(22歳)
2008年 復帰後最初のレースで2位
2010年 インディライツシリーズに参戦シーズンランキング4位
2011年 1型糖尿病で初めてインディ・カーシリーズに参戦

Eichi Ohmura 大村 詠一

エアロビック競技 2011年日本代表

大村詠一選手

1986年生まれ
1990年 4歳でエアロビックを始める
1994年 小学2年生(8歳)で1型糖尿病発症
2002年
/2003年 世界選手権ユースの部シングル部門連続優勝
2006年 妹2人と一般の部トリオ部門優勝
2008年 全日本選手権一般の部男子シングル部門優勝
2010年 妹2人と一般の部トリオ部門優勝、男子シングル部門2年連続準優勝