第17回 患者が行く!研究室訪問 〜佐賀大学 医学部肝臓・糖尿病・内分泌内科 永淵正法先生〜

日本IDDMネットワークでは 「1型糖尿病研究基金」で研究助成を行っている研究者の研究現場(実験室や研究室)を患者・家族や支援者の方たちと一緒に訪問しています。
コロナ禍の影響で4年ぶりの現地開催となった研究室訪問。どこまで研究が進んだのか、研究内容について説明いただきながら、皆様のご寄付がどのように現場で活かされているのかを伝えてまいります。

17回目を迎える今回は、「ウイルス糖尿病予防ワクチン開発」を目指す佐賀大学の永淵正法先生の研究室です。一緒に研究をされている三根敬一朗先生からもお話を伺いました。

8月23日、新潟県議会議員さんを含め参加者4名、日本IDDMネットワークからは事務局の畑中と1型糖尿病患者の石郷が参加し、計6名で佐賀大学を訪問しました。

研究の目的

1型糖尿病の原因となるウイルスを見つけ出し予防ワクチン開発につなげる。

研究概要

ウイルス感染で1型糖尿病を発症しやすいマウスをつくる。このマウスを使ってヒトの1型糖尿病原因ウイルスを見つけ、ワクチン開発による予防へつなげる。

実験室の様子

これまでの成果

糖尿病を発症させやすいウイルス(コクサッキーB群ウイルス)に感染しやすいように遺伝子操作したマウスを作成し繁殖させることに成功。さらにそのウイルスがよく増える細胞を発見し、ウイルス株を増やすことにも成功。

現在の状況

すい島細胞の表面にコクサッキーB群ウイルスがくっつきやすい物質を出すマウスを作成(国内、海外への特許申請中)。
複数ある”糖尿病を発症しやすい遺伝子”をもつマウス同士を掛け合わせることにより、高確率で糖尿病発症に至るモデルマウスを作成中。
既に、”糖尿病を発症しやすい遺伝子”をもつマウスをコクサッキーB群ウイルスで攻撃したところ、糖尿病発症とまではいかなかったが膵β細胞の一部が壊れていることを見つけることができた。

これからの研究

1型糖尿病を発症させやすいウイルスは一つじゃない。一つじゃないということは発症の仕方も様々である。明らかに今わかっているウイルス(コクサッキーB群ウイルス)に感染した後に1型糖尿病を発症した患者もいれば、いつの間にか何らかのウイルスに感染して1型糖尿病を発症した患者もいる。
将来、小児を対象にワクチン接種をすれば、ウイルスによる糖尿病の発症予防ができると確信して、今後さらに”糖尿病を発症しやすい遺伝子”をもつマウスでより多くのウイルス株について研究を進めていく。現在の研究では明らかにできていない新種の”糖尿病を発症させやすいウイルス”を発見した場合、1型糖尿病の予防そのものに幅が広がることが期待できるからである。

細胞を保存している冷凍室を見せていただきました。

質疑応答

Q:本ワクチンの(ヒトの)接種対象者の想定年齢を教えてください。
A:初回は生後3か月~12か月接種可能です。その後20~56日ずつ間隔をあけて2回目、3回目。また追加で初回から6か月以上間隔をあけてもう1回。計4回の接種が必要です。
Q:コクサッキーB群ウイルスの年齢別の感染率を教えてください。
A:1982年に出された疫学調査では、2歳までに約15%、10歳で約30%、15歳で約60%と報告されています。幼少時に感染を受け始め、年齢とともに感染者が増加していく傾向は現在でも変わりないと考えて問題ないと思います。従って、予防のためのワクチン接種はできるだけ年齢の低い時期に施行すべきということになります。

最後に

約1時間にわたる説明の後は実験室に入れてもらい、細胞を保存する冷凍庫や培養を実際に見せていただきました。
ワクチン完成までの進捗率は現在約70%だそうです。研究が少しずつゴールに近づいていることを実感でき、私自身これからの将来に希望が見えました。
ワクチンで糖尿病を予防できる日が一刻も早くきてほしいと願います。
永淵先生、三根先生、参加者の皆さま、ありがとうございました。(文責・石郷文菜)