国立がん研究センターにて佐賀県庁への“日本IDDMネットワーク指定”ふるさと納税による研究助成金(1,380万円)の贈呈式を実施しました。

2024年09月30日

2024年9月30日(月)、佐賀県庁への日本IDDMネットワーク指定ふるさと納税によるご寄付を財源とし、新薬開発を⽬指す研究4件に対し1,380万円の助成金贈呈式を行いました。
当日、国立がん研究センターからは中釜斉理事長、土原一哉先端医療開発センター長、安永正浩 先端医療開発センター新薬開発分野長、東京科学大学からは粂昭苑生命理工学院教授、大上雅史 情報理工学院准教授、国立医薬品食品衛生研究所からは出水庸介有機化学部長が出席され、日本IDDMネットワークからは理事長の井上龍夫が出席いたしました。
前列左から、中釜斉理事長(国立がん研究センター)、井上(日本IDDMネットワーク)、安永正浩新薬開発分野長(国立がん研究センター)
後列左から、土原一哉先端医療開発センター長(国立がん研究センター)、粂昭苑教授(東京科学大学)、大上雅史准教授(東京科学大学)、出水庸介部長(国立医薬品食品衛生研究所)

■中釜斉国立がん研究センター理事長から
安永正浩教授が進めるのは抗体薬物複合体(ADC)の開発であり、その可能性はがん治療にとっても非常に期待が持たれています。1型糖尿病は自己免疫反応ですが、最近、がんも免疫が非常に大きく関わっていることがわかってきました。
最近では免疫を不活化してがんを治療できる新しい治療法が認識されてきました。1型糖尿病とがんとは直接関係はありませんが、免疫を介する疾患というメカニズムに基づいて、新しい治療法の開発が進んでいく一つの方向性があります。
この度、当センターの安永正浩教授の研究課題に日本IDDMネットワークから研究助成として1,000万円を超える非常に大きなご支援を頂けることを、大変嬉しく思います。
この研究助成は、1型糖尿病の当事者の皆様が中心となって運営される日本IDDMネットワークが、佐賀県のふるさと納税の制度を活用して支援を募る独自の取組をして頂いたものです。このような形で寄付者の皆様が研究を支え、期待をしてくださっていることに深く感謝申し上げます。
今回の研究助成によってがん治療および1型糖尿病の治療に大きく貢献できることを、私自身も期待しております。
皆さんのご支援やご協力に感謝を申し上げるとともに、今後安永先生を中心に、この研究課題にご協力いただく研究者の皆様の活躍を期待しております。

助成研究について

以下4件の研究に助成を行いました。

〇研究課題名:
1型糖尿病(T1DM)及び炎症・自己免疫疾患・白血病に対するIL-7R標的Antibody-drug conjugate(A7R-ADC)の開発
〇研究代表者: 安永 正浩(やすなが まさひろ)国立がん研究センター先端医療開発センター新薬開発分野 分野長
〇助成額:1,030万円
〇助成研究の内容:
1型糖尿病(T1DM)などの炎症・自己免疫疾患や白血病で目印となるタンパク質としてIL-7Rに着目して、IL-7Rを標的にした抗体を作製しました。さらに、この抗体に薬剤を付加したADC(A7R-ADC)*注 を治療薬として開発しています。炎症・自己免疫疾患に対しては、炎症を抑え、免疫のバランスを取り戻す薬を用い、白血病に対しては、白血病細胞を強力に攻撃する抗がん薬をA7R-ADCに組み込みます。
今回の研究では、粂先生と協力し、1型糖尿病患者から採取した免疫細胞とiPS細胞から作った膵臓のβ細胞を用いて、人の病気を再現した実験システムを構築します。さらに、大上先生と出水先生の協力を得て、人工知能(AI)を活用し、従来の薬を上回る効果が期待されるタンパク質分解を促進する新しいタイプの薬(PROTAC)を開発し、このPROTACを組み込んだA7R-ADCの有効性を今回の実験システムで検証し、臨床応用(開発された薬などが診療に使われること)の加速を目指します。
*注 ADCとは:抗体(異物を自分の体から追い出すための対抗物質)に薬剤を付加することで、標的細胞に対して強力に治療効果を示すことができる次世代型抗体医薬(Antibody-drug conjugate)のこと。
▼研究概要の詳細はこちら
https://japan-iddm.net/wp-content/uploads/grant/report/NCC_Yasunaga.pdf

〇研究課題名:
患者由来iPS細胞を用いたヒト1型糖尿病モデルの構築とそれを用いた薬効の検証
〇研究代表者: 粂 昭苑(くめ しょうえん)東京科学大学 生命理工学院 教授
〇助成額:150万円
〇助成研究の内容:
1型糖尿病患者から作ったiPS細胞よりβ細胞を作製して用いることで、1型糖尿病患者の膵臓β細胞の反応を試験管内で再現することができます。
 本研究では、この手法を用いて1型糖尿病患者に特徴的な自己免疫反応による膵β細胞が受ける傷害を試験管内で再現させます。このiPS細胞による疾患モデルの細胞・組織を用いて、安永先生が取り組まれてきた抗体医薬品の有効性を検証します。
▼研究概要の詳細はこちら
https://japan-iddm.net/wp-content/uploads/grant/report/TokyoTechUniv_Kume.pdf

〇研究課題名:
AI創薬によるADC/APC設計支援
〇研究代表者: 大上 雅史(おおうえ まさひと) 東京科学大学 情報理工学院 准教授
〇助成額:100万円
〇助成研究の内容:
分子設計には化学合成や生化学実験による評価が必要であり、通常多くのコストがかかります。近年のAI技術の発展により、実験を行う前に計算機によって有望な分子の設計ができるようになってきました。本研究では、安永先生がこれまで取り組まれてきたADC (Antibody-drug conjugate) の知見をもとに、より効果の高いADCや、標的分子を分解に誘導するタンパク質分解薬とよばれる分子を、AI技術を活用して設計します。
▼研究概要の詳細はこちら
https://japan-iddm.net/wp-content/uploads/grant/report/TokyoTechUniv_Ohue.pdf

〇研究課題名:
1型糖尿病治療を目指したタンパク質分解医薬の開発
〇研究代表者:出水 庸介(でみず ようすけ) 国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部 部長
〇助成額:100万円
〇助成研究の内容:
私たちの研究室では、創薬の新たなモダリティとして注目されているタンパク質分解医薬品(PROTAC)の開発に取り組んでいます。PROTACは、従来の低分子医薬品や抗体医薬品とは異なるメカニズムを持つ分子であり、細胞内の標的タンパク質を選択的に分解できる特徴を有しています。従来の薬剤が主にタンパク質の機能を抑制するのに対し、PROTACはその機能を完全に失わせることで、耐性の克服や副作用の軽減が期待されています。
本プロジェクトでは、1型糖尿病の治療薬開発を目指しており、大上先生がAIと機械学習を活用してデザインしたPROTACを化学合成します。このアプローチにより、従来の薬剤開発プロセスと比較して短期間で高効率な創薬が可能となり、1型糖尿病患者に対する革新的な治療法の提供が期待されます。
▼研究概要の詳細はこちら
https://japan-iddm.net/wp-content/uploads/grant/report/Nihs_Demizu.pdf

 

日本IDDMネットワークでは、2005年の1型糖尿病研究基金設立し研究費助成を行っており、これまで161件8億5196万円(2024年9月現在。本研究助成を含む)の研究費支援を行っています。
今回の研究助成金は、使途を明確にして佐賀県庁へのふるさと納税を募る「ガバメントクラウドファンディング」を活用しています。

▼本件の「ガバメントクラウドファンディング」はこちら
「わたし治るの?」って聞かれたとき「治るよ」と言ってあげられなかった -新薬開発への挑戦-
https://www.furusato-tax.jp/gcf/2862
この寄付額の85%が佐賀県庁から日本IDDMネットワークへ交付されます。

▼日本IDDMネットワークを指定した佐賀県庁へのふるさと納税はこちらから
https://japan-iddm.net/support/fund/furusato/