全国患者家族代表者会議で「病気に係る運転免許の欠格事由の見直しについて」警察庁からご説明いただきました

2002年11月10日

特定非営利活動法人全国IDDMネットワーク第4回全国交流会

第1部 全国患者家族代表者会議
 
日 時:2002年11月10日(日)9:04~10:22
場 所:愛鉄連厚生年金会館(名古屋市)
テーマ:「病気に係る運転免許の欠格事由の見直しについて」(資料一括ダウンロード PDF 36KB)
講 師:警察庁交通局運転免許課 堂前康課長補佐

 本年6月1日から施行された改正道路交通法等により、無自覚性の低血糖による意識障害があるものに対して運転免許の拒否・保留(以上は免許を受けるため試験に合格した者が対象)、取消・停止(以上は免許取得者が対象)がなされることになり、インスリンを常時使用している1型糖尿病患者にとっては重要な問題となった。
 そこで今回、警察庁交通局運転免許課堂前康課長補佐より、改正点のポイント、申請手続き流れなどについて説明いただいた。
 なお、免許手続きの流れについては、資料1(PDF 12KB)及び資料2(PDF 13KB)を参照していただきたい。
 
※ 運転免許の拒否等の行政処分の種別とその意味については、次のとおり。
 
拒否:運転免許試験に合格した者に対して免許を与えないこと。
保留:運転免許試験に合格した者に対して一定の期間中免許を与えることを保留すること。
取消:免許既取得者の免許を取り消すこと。
停止:免許既取得者の免許の効力を一定期間停止すること。

  1. 見直しの背景
 

これまでは一定の障害者や病気にかかっている方等の場合、一律に免許が取得できなかったが、運転免許試験により確認し、又は障害等の程度により個別に道路交通に及ぼす危険性を判断することとするのが合理的であることから見直しを行った。

 見直しにあたっては、従来掲げられていた病気等又は身体の障害のほかに、交通安全の確保の見地から運動障害、意識障害を引き起こすおそれのある病気についても対象とする必要があり、過去の事故事例にかんがみ「意識障害を伴う低血糖症」などについても対象とせざるを得ないと判断した。

 意識障害を伴う低血糖による交通事故の事例は、年間2件程度警察庁に報告がある。また、意識障害を伴う低血糖については、基準は異なるが諸外国でも制限の対象となっており、諸外国での対応事例も参考にして見直しを行った。

 病名等を法令に掲げる背景としては、一つの考え方として法令上は抽象的な表現として具体的には運用で対応するということも可能ではあるが、国民皆免許の状況の中で、運転免許の拒否等の処分は国民の権利義務に大きな影響を及ぼすことから、法令上でどのような場合に免許が与えられ、又は拒否等の処分の対象となるのかを明らかにする必要があるとの考えから、法令上できる限り具体的に定めることとした。

 法令は、免許の拒否等の事由及び基準(資料3 PDF 8KB)、免許の拒否等の事由となる病気(資料4 PDF 7KB)及び病気等に係るその他の拒否等の事由及び基準(資料5 PDF 7KB)を参照していただきたい。


  1. 免許の拒否等の対象の考え方について
 

 意識障害を伴う低血糖の場合、専門医の方々等のご意見をいただきながら、低血糖症について前兆を自覚できるかどうか、意識障害を起こさないよう血糖をコントロールできるかどうかなど低血糖症による意識障害等の予防措置の可否により、免許を与えるかどうかを判断することが合理的と考えた。

 したがって、低血糖症については、前兆があるか、又は血糖をコントロールできる(インスリン量の調節、糖分摂取などができる)場合は、免許を与え、又は継続を認めることとなる。


  1. 「臨時適性検査の実施」について(資料6参照 PDF 7KB)
 
  • どのような場合に臨時適性検査該当者を認めるか
    • 免許申請、更新手続き時の病気の症状の申告又は運転適性相談
    • 事故、違反等の取扱い時(言動等がおかしい場合)
      法改正前の一例として「運転免許試験の待ち時間に倒れた」という事例がある。
    • 本人の申し出等により公安委員会が必要があると認めるとき
 
 
  • 何を検査するのか
    • 病気・個々の症状によっても違う。
    • 警察より検査項目を指定はしていない。
    • 認定医が該当者の病気及びその症状の程度に応じて必要と考える検査でよいというのが基本スタンスである。
 
 
  • 臨時適性検査結果に記載する事項
      後記8の臨時適性検査や主治医診断書の記載事項の概要のとおり。
 
 
  • 運転免許試験に合格した場合
    • 臨時適性検査が必要であると認めた場合には、臨時適性検査の通知を行うとともに、免許を保留することになる。
    • やむを得ない理由なく臨時適性検査を受けない場合には、保留又は拒否の対象になり得る。
   
 
  • すでに免許を持っている場合
    • 臨時適性検査が必要であると認めた場合には、臨時適性検査実施の通知をするが、その時点では取り消しにはならない。
    • やむを得ない理由なく臨時適性検査を受けない場合には、停止又は取消しの対象になり得る。
   
 
  • 臨時適性検査を行う医師
    • 都道府県公安委員会が、薬剤性低血糖の場合は日本糖尿病学会認定医、その他の低血糖については日本内分泌学会の中からそれぞれ認定し、検査をお願いする。

  1. 「他の方法により確認」について 
 

該当者が任意に主治医の診断書を提出して行う。
主治医は、継続的に診察している医師である。


  1. 「受検等命令」について(資料7参照 PDF 7KB)
 
  • 適性検査受検命令又は診断書提出命令のことである。
  • 6か月以内で治る見込みが有る場合は、保留、停止の対象となり、この場合に受検等命令を行うことができることとされている。6か月以内に血糖コントロール可と主治医等が判断し、都道府県公安委員会が認めれば免許の付与、継続となる。
  • 保留、停止処分を行う際には、将来の状況を完全に予測できないので、保留、停止の期間が経過する前に病気の症状を確認し、免許の付与、継続を認めるか、又は拒否、取り消すべきかどうかなどを判断するために実施。
  • 内容は臨時適性検査と同様である。
  ※適性検査:
 

一般的には更新申請時に行う視力、聴力等の検査のこと。なお、適性検査受検命令にいう適性検査は、命令に基づき病気の症状等について行う検査のこと。

 「適性検査」の用語については、次の2種類あります。
 1つは、更新申請時に行う適性検査のことです(道路交通法(以下「法」という。)第101条4項、法第101条の2のいわゆる期間前更新や法第101条の2の2のいわゆる経由更新に関して定める「適性検査」も同じ意味です。)。
 もう1つは、法第90条第6項や法第103条第5項において定められている適性検査受検命令の場合の適性検査です。
 更新申請時に行う適性検査の内容につきましては、道路交通法施行規則(以下「規則」という。)第29条第7項において、法97条第1項第1号に定められているいわゆる適性試験の内容である規則第23条第1項の規定を準用することとされていますので、適性試験の内容と適性検査の内容はほぼ同じです(色彩識別能力を除く。)。
 したがって、新規取得時に行う「適性試験」の内容と適性検査の内容は色彩識別能力を除き、同じ内容ではありますが、法令上の用語が異なることから、このように記載いたしました。

  ※臨時適性検査:
 

免許の申請時や事故、違反の取扱い時などの更新申請時以外の時に必要があると認めて、病気の症状等について行う検査のこと。

運転適性については、視力や聴力などの身体的な適性と安全な運転に影響を及ぼす可能性のある病気又は身体の障害の2つに分類されます。
前者については、適性試験又は適性検査により確認することとされています。
後者については、試験等で確認することができないので、後者に該当する可能性があると認められるときに臨時に適性検査を行うことができることとされています(法第102条第1項)。
したがって、後者について行う臨時適性検査は、更新申請時等の運転適性相談や個別に事情を伺った結果、後者に該当する可能性があると認められる場合があるとしても、更新申請時の適性検査の内容には含まれず、法第102条第1項の規定に基づき臨時に適性検査を行うこととなるものであるということから、「更新申請時以外の時」と記載しています。
今回の法改正により、新規取得時や更新申請時の運転適性相談等の状況を踏まえ、臨時適性検査を受けることが多くなることが考えられるので、分かりにくいかもしれませんが、ご理解ください。


  1. 欠格期間について
 

一度、病気にかかっていること等を理由として拒否や取消しになった場合、その後1年間は免許を取得できない。


  1. 病気の症状等に関する申告欄について(資料8-1 PDF 7KB及び資料8-2 PDF 7KB参照)
 
  • 免許申請書(資料8-1 PDF 7KB)、更新申請書(資料8-2 PDF 7KB)の病気の症状等の申告欄に記入しない、又は虚偽の記載をした場合
    • 申請書を記載しなかった場合は適正な申請とは認められないので、都道府県公安委員会が行政手続法第7条の規定により申請の補正を求めることになる。これに応じないときは申請手続を打ち切ることもあり得る。
    • 虚偽申請の場合、その結果免許を取得すれば、免許の不正取得として刑事事案の成否が問われる可能性もある。個別具体的に判断することになる。

       また、虚偽申告し低血糖で事故を起こした場合、個々の状況により違うが、事故の内容、運転者の状況や被害者の状況によっては、処罰が重くなる可能性は否定できない。

 
  • 免許取得時は問題なく免許を取得した者が、低血糖による意識障害で事故を起こした場合は、過労・病気・薬物の影響等で正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない規定(法第66条「過労運転等の禁止」)による責任を問われることがあり得る。
     また、免許取得後初めて無自覚性低血糖となり事故を起こした場合も、一概には言えないが、法第66条過労運転等の禁止による罰則が適用される可能性がある。全くの過失の場合、過失の程度が低い場合、事故の原因が何かによって適用の条文が変わってくる。
     いずれの場合も、条文の適用や処罰の軽重については、病気の症状等や事案・事故の形態等個別具体の事情により変わるので、一概には言えない。

  1. 運転適性相談について(資料9 PDF 7KB資料10 PDF 7KB資料11 PDF16KB参照)
 

 各都道府県警察では、病気にかかっている方等が免許の取得や更新等を行うことができるかどうかなどを事前に相談できるよう運転適性相談を行っているので、気軽に相談してほしい。
運転適性相談の結果、免許の取得又は更新等が可能であると判断したときには「運転適性相談終了書」を交付することとしており、その終了書の交付を受けた後1年間に免許の申請時等にその終了書を提示したときには病気の症状等に関する個別聴取を簡易にすませることとしている。

 

運転適性相談又は申請時の個別聴取において聴取する事項の概要は次のとおり。

 
  • 聴取事項の概要(資料9 PDF 7KB参照)
    • 意識を失った原因
    • 意識を失った時期
    • 現在医師にかかっているか否か
    • 医師からの運転に関する指導の有無及び内容
    • 意識消失があった場合は質問票によりより詳しく実施

        ※聴取の内容により、臨時適性検査や主治医の診断書提出の判断をしていく。

   また、免許の申請時に主治医の診断書を提出していただく場合に、主治医が診断書に記載していただきたい事項の概要は次のとおり。臨時適性検査結果についても、同様の事項について記載していただくこととなる。
 
  • 臨時適性検査や主治医診断書の記載事項の概要(資料10 PDF 7KB参照)
    • 1年以内に意識消失があったか否か
    • 運転を控えるべきか否か
    • 前兆を自覚できているか否か
    • 血糖管理ができているか否か
    • 今後6か月以内に運転を控えるべきとはいえないとの診断ができる見込みの有無
    • 今後×年程度以内に発作のおそれの観点から運転を控えるべきか否か
 

  1. 仮免許について
 
 仮免許についても同様。ただし、仮免許の有効期間は6か月であるので、拒否又は取消しのいずれかである。
 ※特別な事例:原付運転免許と普通自動車運転仮免許がある場合
  6か月以内に直ると見込まれる場合、原付は6ケ月停止、仮免許は取消し。
  1. 危険運転致死傷罪(刑法第208条の2:平成13年12月25日施行)の適用について
 
 裁判例が無いのではっきりしたことはいえないが、危険運転致死傷罪が適用となる「薬物」とは規制薬物(覚醒剤など)の他に睡眠薬が含まれるので、インスリンが対象となる可能性がないとはいえない。
 この刑罰の適用には、アルコールや薬物等の使用について、それらを飲用又は使用すれば安全な運転に影響を及ぼすことについての故意、未必の故意が必要とされているが、血糖を下げる目的でインスリンを使用すれば、血糖値が下がることは分かっていると判断できるので、当てはまる場合があるかもしれない。
 個別具体の事例に照らして検討し、最終的には裁判所が判断することになる。

危険運転致死傷(刑法第208条の2:平成13年12月25日施行)
アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で四輪以上の自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は十年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで四輪以上の自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。
 
2 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。

  1. 医師が「免許を拒否すべきとはいえない」と判断した患者が、意識障害を起こして事故を起こした場合の医師の責任はどうなるのか。
 
 患者が事故を起こしたからといって、直ちに医師の法的な責任が問われることには必ずしもならないであろう。
 ただ、正しく判断を行なうと患者が免許を取得できなくなるケースで、医師が意図的に虚偽の診断書を書いた場合は不法行為責任が問われる可能性はあると考えている。また、虚偽の診断書を書いたということで、刑事、行政、民事の責任を問われることはあるかもしれない。
 
  1. 主治医の診断書が必要と言われて、診断書を書いてもらうのに時間がかかり、更新期限を超えてしまった場合はどうなるか。
   有効期限を過ぎると免許は失効するので、期限内が原則。有効期限はあらかじめ分かっているので期限に間に合うように準備をしてほしいが、場合によっては臨時適性検査を受けてもらうこともあり得ると考える。申請した都道府県公安委員会の職員と相談してほしい。
  1. 原則、病気についてきちんと申請して、主治医の診断書を持っていけばいいのか。
    また、主治医は診断書の記入等について十分理解しているのか。
 
 運転免許試験場の職員に問い合わせて欲しい。都道府県警察によっては、ある程度書式を定めている場合がある。該当項目に○印をつければよいという書式である。
 主治医から問い合わせてもらってもよい。
  1. 改正道路交通法の施行後、取り消し等の事例はあるか。
   無自覚性低血糖による事例はまだ聞いていない。
  1. 10年くらい前に意識消失を起こしたことがあるが、その後意識消失を起こしていない者についても、免許の申請書の病気の症状等の申告欄にチェックをして、場合によっては主治医の診断書を提出しなければならないこととなるのか。この場合、当時の主治医が転勤等によりどこにいるか分からないこともあり得るがどうか。
   10年前でも意識消失があったのであれば、その事実を確認することができるようにしてもらう必要がある。そこで、現在、主治医にかかっているかどうかにより異なるが、もし主治医にかかっていない場合又は現在の主治医がその事実を承知していない時などには、当時の主治医に診断書等を作成してもらうこととなり、また、現在の主治医が承知している時には、その主治医に診断書を作成してもらうこととなると考えられる。また、その場合でも臨時適性検査を改めて受けてもらう場合もあり得るが、具体的には、各都道府県警察の運転免許試験場等に問い合わせてもらいたい。

(感想:小川副理事長)
 今回の改正に向けて、素案、試案段階で抱いた、「免許が取れないのでは」、「免許を取るのが難しくなるのでは」、「糖尿病のほとんどの患者が対象となるのでは」といった不安は、素案・試案の各段階で患者団体等が意見表明や提言を行ってきたことも功を奏し、運転中の低血糖を防ぐ対処ができるならば免許の取得は制限はされないとこととなりました。
 しかし、堂前さんのお話を聞いていくうちに、免許を取得して「低血糖を防止できず」意識障害を起こして事故を起こした場合は、ケースによるとはいえ「防止する義務を果たしていない」と見なされ、厳しい処分を受けなければならないことも考えられます。
 運転者の原因、被害者の状況等様々なことを勘案して処分等が決まるのであろうが、「低血糖を防ぐことができる」のにできなかった(しなかった)ことも処分の対象となるわけで、私たちとしてはこれまで以上に運転前の補食や血糖測定により、運転中の低血糖を起こさないように行動を習慣化しておかなければなりません。意識付けだけではダメです。
 また、医療機関や患者団体等による教育の場を確保することも大変重要となります。
 全国IDDMネットワークとしてもこの課題に引き続き取り組んで参ります。