1型糖尿病患者が主人公の恋愛小説「心はあなたのもとに」(著者:村上龍さ ん)発刊のご縁で、村上龍さんのメルマガに井上理事長の連載スタート。

2011年10月20日


 「心はあなたのもとに」発刊のご縁で、2011年9月28日、村上龍さんと初めてお会
いしました。
 村上さんの「このような小説を書いた以上は、作者として私も責任を持ってこの病気に関わっていきます」という言葉に感銘を受けました。
 ある患者さんからは「主人公の気持ちがよく伝わってきました」という感想も頂戴しました。

 こうしたご縁で村上龍さんのお勧めにより、約10万人に配信されている村上龍さんが編集長のメルマガ”JMM [JapanMail Media] ”に私の連載がスタートすることになりました。
 これを契機に1型糖尿病に対する社会の理解が深まることを願っています。


       2011年10月20日
          特定非営利活動法人日本IDDMネットワーク
             理事長  井 上 龍 夫

村上龍さんのWEBサイト
    http://ryumurakami.jmm.co.jp/
「心はあなたのもとに」の紹介サイト
http://www.bunshun.co.jp/cgi-bin/book_db/book_detail.cgi?isbn=9784163300009


村上龍さんのからの新連載のお知らせと井上理事長の第1回の寄稿は下記のとおりで
す。

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■ 編集長から新連載のお知らせ
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 特定非営利活動法人日本IDDMネットワーク:理事長である井上龍夫氏によるエッセ
イの新連載をはじめます。IDDMというのは、Insulin Dependent Diabetes
Mellitus、
「インスリン依存型糖尿病」のことです。1型糖尿病とも呼ばれています。『心はあ
なたのもとに』(文藝春秋)というわたしの最新長編小説では、1型糖尿病であるヒ
ロインが登場します。執筆の過程で、多くの医療関係者、患者さん、そのご家族など
に取材させていただきました。

 作品刊行後、テキサス州にあるベイラー研究所で「膵島(ランゲルハンス島)移
植」
を研究されている松本慎一先生から、井上龍夫氏をご紹介いただきました。『心はあ
なたのもとに』という小説を書いてはじめてわかったことですが、日本では、いまだ
1型糖尿病に関する社会的理解が遅れていますし、支援体制も未成熟です。

 1922年、世界で最初にインスリン投与が行われました。まだ100年も経っていませ
ん。インスリンの補充ができなかった時代には、1型糖尿病は確実に死に至る病気で
した。現在、すでに確立されている「すい臓移植」の他に、「膵島移植」や「人工膵
島」、さらに「再生医療」「遺伝子治療」などの先端的な研究が進められています。
連載のタイトルにもなっている「『治らない』から『治る』へ」という日本IDDMネッ
トワークの指針は、人類の英知の結晶である生命科学への信頼と希望を象徴するもの
です。

 井上氏の連載によって、1型糖尿病に対する正しい理解とヒューマニスティックな
支援が、さらに広まり、深まることを願っています。

                                        村上龍

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■「『治らない』から『治る』へ」                  第一回
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イントロダクション・序章

 私は「1型糖尿病」の患者・家族支援組織「特定非営利活動法人 日本IDDMネット
ワーク」の代表を務めております井上龍夫と申します。このたび村上龍さんからのご
紹介を受け、本欄に寄稿させていただくことになりました。

 1型糖尿病の持つ様々な側面についてはこれから何回かにわたってご紹介させてい
ただきますが、読者の皆さんは、糖尿病という病名は知っているけれど1型、2型の2
種類あることは知らないという方がほとんどではないでしょうか。これらは確かに同
じ糖尿病ですが、実は全く異なる疾患といってもよいものなのです。

 私がこの疾患とかかわりを持ったきっかけは、私の息子が20年前にこの疾患を背
負ってしまったといういわば避けられない因果でした。そのときから私の人生は大き
く変わったように思います。今回は初回ですので私の簡単な自己紹介、そして今後の
話題提供のあらましについてお話しいたします。

 私は愛知県在住で民間企業に勤める研究者で、専門は物理学や工学の分野です。長
男が小学校2年生のときにこの1型糖尿病を持つことになりました。病気は学校検尿で
見つかりました。糖尿病・・・?やせ型の小さな小学生でしたので、学校からの通知
でその疑いを示されたとき、はじめは目を疑いました。本人には全く自覚の無い状態
で見つかりましたが、近くの開業医で検査をするとほぼ間違いないとのことで、そこ
から我が家は幼稚園児であった次男含めて、家族4人で1型糖尿病と向かい合う生活が
始まりました。

 この疾患の唯一の治療は絶対的に不足している「インスリン」の補充です。治療と
いいながら「治す治療」ではなく、不足分を補うという対症療法です。そしてインス
リン補充をやめると数日で命を落とすことになります。しかもつらいことにインスリ
ンは飲み薬ではなく注射でしか投与できないのです。小さな我が子に痛みを伴う一日
数回の注射をする親の気持ちをご想像ください。

 その後、同じ病気の仲間が集う地元の1型(小児)糖尿病の患者会の存在を知り、そ
こで多くの情報と支えを得ました。その数年後から、その地域患者会の会長職を14年
間務めました。さらに1995年の阪神淡路大震災の年にスタートした全国の1型糖尿病
地域患者会の連携組織「全国IDDM連絡協議会」のメンバーにも加わりました。その後
この団体の代表も私が務めることになり、2000年にはNPO法人(特定非営利活動法
人)
の法人格を取得し、2003年に名称も「日本IDDMネットワーク」と改称し現在に至って
います。この組織の出発点は各地の地域患者会の連携でしたが、次第にその活動範囲
や対象も広がり、多くの支援者の方々とつながるようになってきました。そして現在
は一生インスリン補充が必要とされてきたこの病気をいつかは「治る」疾患にするべ
くその根治治療の研究への支援活動も進めております。

 これから何回かにわたってこれまでの経緯を振り返りながら、私自身の患者の親と
してのこの病気との関わりや思い、そして上記の地域患者会、全国の患者・家族支援
組織を運営する立場の者として、皆さんがあまりご存じないかも知れない、このよう
な団体の活動内容や私たちの持っている使命感などについてもご紹介できたらと思っ
ております。これらの話題はあくまでも私個人の経験や価値観、視点に基づく内容で
すので、多くの患者やその家族の方の感じ方や関係する方の意見を代表しているわけ
でありませんが、少しでもこの1型糖尿病について、そしてまだまだ日本の社会の中
では十分認知されていない患者・家族支援団体の活動についてご理解いただけたら幸
いです。

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1型糖尿病
糖尿病はすい臓から分泌される「インスリン」の働きが悪くなったり、その量が不足
して血液中のブドウ糖(血糖)量の調節が出来なくなる疾患で、「1型糖尿病」と「2
型糖尿病」の2つのタイプがあります。一般的に知られている糖尿病は主に生活習慣
に原因がある2型糖尿病です。それに対して1型糖尿病は生活習慣とは無縁のきっかけ
により比較的短期間にすい臓のインスリンを作る能力が失われる病気です。現在の治
療法は絶対的に不足しているインスリンの「補充」を一生継続することです。患者は
毎回の食事に応じたインスリンを、注射(1日3~4回程度)や小さな機械(インスリ
ンポンプ)によって補充を行います。食事療法や運動療法が中心の2型糖尿病とは治
療の考え方が全く異なります。日本の1型糖尿病の患者数の正確な数字はつかめてい
ませんが、糖尿病全体の数%以下で年間の発症率は人口10万人当たり1~2人と希少性
疾患です。2型糖尿病との違いのひとつは発症が幼児・小児期から見られることです
が、成人になってからの1型糖尿病発症もかなりあり、糖尿病という病名から2型との
混同や理解不足に苦しめられる患者・家族も少なくありません。
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日本IDDMネットワーク
日本IDDMネットワークは1型糖尿病の患者・家族の支援団体です。1995年の阪神・淡
路大震災での患者・家族の連携・協力の経験などが動機となり、全国の地域患者会の
連携とこの疾患を取り巻く社会的課題の解決のために設立されました。会員として地
域患者会および個人会員を含めて、約3000人が所属しています。主な活動としては患
者・家族への正しい情報提供(インターネットや情報誌出版、セミナー・交流会な
ど)、この1型糖尿病の認知向上のための公開シンポジウムの開催、そして患者・家
族の療養環境や医療・福祉的な支援制度の改善のための政策提言、大規模災害時の患
者・家族の救援対応、療養相談などです。そして究極的なゴールである1型糖尿病の
根治を目指し、その研究支援にも取組んでいます。その目的で2005年に「1型糖尿病
研究基金」を設立し、患者・家族からの寄付によりこれまでに5件の助成を実施しま
した。この基金には患者・家族の方はもちろんですが、広く一般の方々にもご寄付を
お願いしております。
ホームページ: https://japan-iddm.net/
1型糖尿病研究基金: https://japan-iddm.net/fund/
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「1型糖尿病研究基金」への募金(ご寄付)について
1型糖尿病の根治早期実現のために、患者・家族の期待を込めて先端的研究テーマに
対して研究支援を行っております。2005年に設立した当基金によりこれまで5件(1件
100万円)の助成を実施しました。
(助成実績: https://japan-iddm.net/fund/result/ )
研究助成活動のPRビデオ: https://japan-iddm.net/cm/
皆さまからのご支援をよろしくお願いいたします。
ご寄付は以下の口座でお受けいたします。
■みずほ銀行佐賀支店
 口座種別:普通預金
 口座名義:特定非営利活動法人日本IDDMネットワーク
 口座番号:1629393
■ゆうちょ銀行(郵便局)
 口座名義:特定非営利活動法人日本IDDMネットワーク
 口座番号:01710-9-39683
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JMM [Japan Mail Media]            No.657 Extra-Edition2
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】98,332部
【WEB】   ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )
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