新型コロナウイルスの感染予防はインフルエンザと同じ予防法を徹底することです。新型コロナウイルス予防と同様のインフルエンザ予防においては、マスクの着用、手洗い・うがいに加えて適切な歯磨きや口腔ケアが重要であるという研究結果が出ています。
では、新型コロナウイルスと同様に発症するインフルエンザはどのように感染しているのでしょうか。
歯磨きをおろそかにしていると虫歯や歯周病の原因となる細菌が増殖してプラーク(歯垢=バイオフィルム)となります。このプラーク中には気管支炎や肺炎などの発症や重症化にかかわる肺炎球菌やインフルエンザ菌、さらに黄色ブドウ球菌、緑膿菌などの細菌が含まれています。これらの細菌はプロテアーゼと呼ばれる酵素を出し、インフルエンザウイルスが気道の粘膜から細胞に侵入しやすくする特性を持っています。つまり、口の中が不潔な状態を放置しておくとプロテアーゼの量が増え、インフルエンザの発症や重症化を招きやすくなるというわけです。
新型コロナウイルスに関するデータはまだありませんが、インフルエンザに関するデータでは、歯科衛生士による口腔ケアを受けた人のインフルエンザの発症率が、本人や介護者だけから口腔ケアを受けた人の10分の1になったとの報告があります。東京歯科大学名誉教授の奥田克爾氏らは、2003年9月から04年3月にかけて東京都府中市の特別養護老人ホームのデイケアに通う65歳以上の高齢者98人に対し、歯科衛生士による口腔ケアと集団口腔衛生指導を1週間に1回実施しました。一方、別のデイケアに通う高齢者92人には、ご自身がいつもされている口腔ケアをしてもらいました。
その結果、歯科衛生士による口腔ケアを実施したグループでは、ご自身で口腔ケアをしたグループに比べ口腔内の細菌数が減り、前述したプロテアーゼの働きが低下していることがわかりました。さらに、インフルエンザを発症した人は、ご自身で口腔ケアをしていたグループが9人であったのに対し、歯科衛生士による口腔ケアを実施したグループではわずか1人でした。この研究結果は国内外の歯科領域の専門誌で発表され、NHKの「ためしてガッテン」(2006年2月放送)でも取り上げられるなど、大きな反響を呼びました。
「参考文献」
・神奈川県歯科医師会HP
・奥田克爾ほか:平成15年度厚生労働省老人保健健康増進等事業、口腔ケアによる気道感染予防教室の実施方法と有効性の評価に関する研究事業報告書、地域保健研究会、東京、2004.
・阿部修、奥田克爾ほか:日本歯科医学会会誌:25,27-33、2006
【追記】
公益社団法人日本歯科医師会では、歯とお口の重要性を啓発すべく日本歯科医師会HPコンテンツ「日歯8020テレビ」を制作しています。その中で、インフルエンザ感染のメカニズム、インフルエンザ予防について歯磨きが有効であるという内容の動画があります。動画「インフルエンザ予防と歯周病菌」(https://www.jda.or.jp/tv/96.html)を視聴して予防法を参考にし、新型コロナウイルス感染の予防に努めてください。
緊急事態宣言も一部の地域を除いて解除されてきました。第二派を起こさないために、外出を控えるだけでなく、口腔ケアにも気を付けて新型コロナウイルス感染予防を行いましょう。
また、診療の継続・延期、メンテナンスの継続・延期など、ご自身で判断なさらずに、ぜひ「かかりつけ医」にご相談ください。
【最後に一言】
マスコミ等で、歯科医院で新型コロナウイルスに感染しやすいとの報道が一部のメディアでありましたが、歯科医療現場では新型コロナウイルスだけでなく、毎日感染症と向き合っています。そのため、感染対策はほとんどの歯科医療現場では万全を期しています。反対に、不特定多数の患者さんを診る歯科医療者は濃厚接触となるので、患者さんからの感染が危惧されています。歯科でのクラスターを防ぐために、歯科医療現場では様々な対策をしているのが現状です。そのこともご理解頂ければ幸いです。歯科受診の際には、かかりつけの歯科に是非、問い合わせしてからの受診としてください。