患者が行く、研究者訪問 第2回 第2話

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左:竹内先生、右:興津先生

ここからは質問タイムです。後半は患者(4名)が研究者の方から質問を受けることになりました。

 

【精度】

患者A新しく開発されている光で測定するセンサーの血糖値と、今私たちが使用している血糖値のセンサーでは精度に違いはありますか。

竹内:原理的には今回の材料は、グルコースが何個ついたかによって発光の強度は変わりますが、精度は発光の強弱の微妙な変化を計測器がどれだけ読み取るかによります。計測器にはすでにいいものがあるので、それをいかに小型化するかというのが課題です。現在、50~150mg/dlまでの間で評価を重ねているところです。計測器の精度を上げれば、その追従性は上がってくるのではないかと思っています。現状では0~300mg/dl位の間の精度は、現行のCGMS(持続血糖測定システム)のタイプよりかなりいい結果が出ています。

患者B:時間的なずれはどうですか。CGMSは酵素反応、新しいセンサーは光ということで、時間的なずれはありませんか。

竹内:時間的なずれは、酵素型でも光を使った場合でもあまりないと思います。光のよさは、埋め込んで電気配線もなく外側から光を当てたときに測定できること、グルコースがなくなると光の強度が抑えられ血糖値が下がっていくことも測定できること、長期間にわたって反応を見ることができるということです。

 

【補正】

患者A:CGMSは補正が必要ですが、このセンサーの場合はどうですか。

興津:この方法でも補正は必要です。皮膚の色や、埋める深さなどが個人個人で違うので、光の強度を血糖値に置き換えるためには、どこかで補正しなければなりません。血糖値を実測しているのではありませんから。

竹内:デバイス(機器)と融合させるときに瞬時にキャリブレーション(補正)ができるとか、もうちょっと便利にしていくというのがこれからの課題でしょう。

 

【実用化する時の様式】

患者Cこれを拝見したときに、人間が実際に使う場合にはどういう様式になるのかと考えたんですが、手とか腕にファイバーを埋め込んで、腕時計型の計測器を取りつけ、そこから紫外線を照射し、定量的に計測して、数値で表示してくれたら一番いいのかなと思いました。光を見て判断するのではなく、定量化することは難しいですか?

竹内:そうですね。センサーがずれてしまっては困るので、センサーと計測器は密にコンタクトしておいた方がいいでしょう。人間だとどこに埋め込むのかという質問もよく受けるのですが、まだちゃんとした回答は得られていません。というのは、例えばマウスからラットに種が少し変わるだけでも、埋め込み部位も考え直さなくてはならないからです。マウスの場合は本当に皮膚が薄いので、耳が適当でしたが、人間の場合はどうなのかを考え直さなければなりません。腕時計型がいいのか、爪の方がいいのか、あるいは指輪型など。さらに言うと、本当に皮膚を介した計測がいいのかということもあります。このハイドロゲルの特徴は、①光の計測である、②グルコースがなくなれば結合が外れ、もとに戻る可逆な反応である、③長期間保つ、ということなので、小さくして光学の計測器まで全部埋め込んでしまって、電波で飛ばす方法も考えられ、そうなると埋め込み部位はどこでもいいわけです。現在の私たちのセンサーはデモンストレーションで、実際に人間に埋め込むとなると、どこが適当なのかはまだまだ検討しなければならないでしょう。

 

【紫外線の影響】

患者C:センサーで血糖値を知るためには、必ずブラックライト(紫外線を放射するライト)が必要なんですよね。

竹内:現状はそうです。

患者C:紫外線を使い続けると、皮膚にはあまりよくないといわれていますし、同じ部位でずっと当て続けているのもよくないので、動かす必要があるのかと思いますが。

竹内:おっしゃる通りです。そのあたりも検討していかなくてはならない項目です。レーザーパルスで、現在とても小さな発光器があります。例えば1ミリ秒(千分の1秒)でわずかな紫外線を当て、できる限り侵襲を少なくしていく方法が一つと、もう一つは、紫外線以外の別の材料を検討していく方法です。例えばあと10年くらいすると紫外線ではなくて、赤外線に近い波長で同じことができるようになると、人にはやさしいですね。ただその時も、ハイドロゲルという材料、ファイバーという形状、ポリエチレングリコールのような生体適合材料を入れるという、私たちの知見は使えるのではないかと考えています。

 

【埋め込むということ】

患者A:今回は埋め込んでいますが、私は埋め込まないで非接触型で、血管に光学的に何か照射して測定できるのがいいと思います。

興津:指先で酸素の量を測るものみたいにですね。

竹内:プロジェクトを立ち上げる前に興津先生にも加わっていただいて、センサーの専門家の方と、どんな血糖値センサーが理想かということについて話し合いました。もちろん非接触型センサーというアイデアも出ていたのですが、今の技術を結集してできるかなと考えたときに、われわれにはすぐに手を出せる解がありませんでした。まずは現在テルモ社さんがお持ちの材料を使って、トライアルしてみようということになりました。

埋め込み型センサー自体は、まだ社会に受け入れられないと思うんですよ。なんか埋め込むというのは抵抗がある。でもそういったデモンストレーションを僕らがすることによって、社会の反応を探り、その時代の価値観にあったセンサーを開発できればよいなと思っています。

興津:せっかく患者さんが来られているのだから、埋め込みに対して生の声が聞けますよ。

患者B:最初は、埋め込みデバイスは、自分がロボット化するような印象があり少し嫌でした。しかし考えが変わってきました。今までの医療は悪いところを元の状態に戻して、健康な人間をつくり上げようとする医療でしたが、長い目で見れば人間そのものは変化しているし、デバイスを使って自分が変化して、QOLのいい生活を送る方法もあるのではと思うようになりました。最近では多くの人が体のどこかに不調を訴えていますが、治すというよりこのようなデバイスの力を借りて、生活の環境を改善できればいいのではないかと思います。そういうことについて、研究者の皆さんと話し合う機会を持つことができ嬉しいです。

患者A:埋め込みというと、私は心臓のペースメーカーをイメージします。これは大々的に使われています。異物を入れても、それが大きな悪さ、副作用がなければ、構わないという感じを持っています。

患者B:その選択を研究者側だけで判断するのではなく、患者たちの気持ちが反映されないといけないと思っています。

竹内:私は、いろいろな形を考えないといけないと思っています。埋め込みでもぷっと膨れてしまうようでは、心配です。腕時計も昔は懐中時計で、手につけることに障壁もありましたが、形やデザインがしっくりするようになり、みんながつけるようになりました。社会の価値観に合わせたセンサーの形、どういうスタイルだと抵抗なく埋め込んでもいいかということを検討するのに、今日のような機会はまさにいいチャンスですね。

患者C:極端かもしれませんが、私は「機械で取り戻す自然」と思っています。自然が自然状態の自然であることはもうなくて、自然が自然であるためには機械とか文明の力を借りないと、それは維持できないのではないかと思っているので、こういう手段というのは有りだと思います。選択肢としては、「再生」か、「移植」か、「サイボーグ」かの3つですね。そのうちどれを取るかと言われたら、私は「再生」か、「サイボーグ」を取ります。「移植」はどうしても他の人の臓器をお願いしますという話になるので、その人の価値観によるので選択肢としては有りだと思いますが、私にどうですかと言われると今のところは選択しないと思います。

興津:人によって価値観は本当にそれぞれですし、それでよろしいと私も思います。

 

【開発の連携に対する期待】

患者A: 2000年から3年間かけ経済産業省で光学的血糖値測定システムを応用した人工膵臓開発のプロジェクトがあったようです。その時はセンサーの開発がうまくいかずとん挫したと聞いています。(1型糖尿病[IDDM]お役立ちマニュアルPart4 p53参照)

竹内:今おっしゃられたNEDOのプロジェクトを立ち上げるとき、人工膵臓をつくる試みは、これまでに何度も多くの方がチャレンジされていて、それでもなかなかうまくいかなかったという話を聞いていたので、私たちは人工膵臓ではなくセンサーを開発しようと決めました。

患者A:2000年のプロジェクトでは、データを転送するシステムとか、インスリンを注入するシステムは確立されているが、血糖値を測定するセンサー自体がうまくいかなくて止まっているんだと報告されています。竹内先生が研究されているセンサーがうまく測定できれば、携帯型の人工膵臓が実用化できるのではないかと期待しています。

竹内:センサーの形式に関してはこれまでに出てきたものをリストアップして、僕らができるところでいうと、例えば光を使って皮下で見るようなタイプのセンサーは検討されていなかったので、まずはそちらからやってみましょうということになりました。

患者A:いろいろな研究が、あちこちでやられているので、研究者の方にも連携していただくといいかなと。

興津:そうですね。しかし実際のところなかなかそれは難しいと思います。お互いが競争相手のこともありますし、連携したためにかえって開発が遅れるといった状況もありえます。

 

【実用化への道のり】

患者D:新しいセンサーを、ちょっと試してみたいような気もしています。誤作動があっても安全が確保されるフェイルセーフが組み込まれているなら、試してみたい気もします。パッチン(従来の血糖測定)と、埋め込み型を併用して、どんなふうに動くのか知りたい気がします。

興津:効果を今見ています。効果が確認されれば、次に安全性を十分検討してそれで初めて人に応用するということになるでしょう。

患者C:その次はもっと大きい動物で、豚とか犬とか使って研究されるのですか。

竹内:今の実験環境ではラットとかウサギまでなので、それより大きなものになると別の機関に行かなければなりません。ですから次のステップとしては、毒性評価とか、長期間継続して計測できるのかというあたりの精度を向上させていかなくてはいけないかなと考えています。

 

【センサー開発のその先】

患者B:ずいぶん先の話になると思いますが、センサーより先の人工膵島というような他のデバイスの開発はどうでしょうか?細胞そのものを埋め込むようなものができれば、センサーを埋め込まなくてもいいわけですよね。

竹内:興津先生は門脈(消化管を流れた血液が集まって肝臓へと注ぎ込む部分の血管)に膵島移植をしていますが、その生着率を上げるために私たちが研究しているマイクロ加工、微細加工のビーズが使えるのではないかと思っています。センサーの展開に関しては、今は血糖値をターゲットにしていますが、血糖値以外も測定できるような材料をゲルの中にいろいろ埋め込むことができるのではないかと考えています。そうなれば埋め込んだだけで、いろいろなバイタルサインがわかります。健康モニタリングセンサーみたいなのがあると、一つ健常者でも入れてみるかなということになりますね。「アルコール飲みすぎました、もうやめて下さい」といったような。

 

【即時性】

患者B:IDDM患者には即時性というのが重要で、下がってきたというのがすぐわかればいいと思います。

竹内:それは、体調の変化とかではわかりませんか。

患者B:もちろんわかりますが、ハイキングの時などに下がり傾向がわかると対処しやすいということがあります。気軽にすぐわかるというものがあれば有難いです。

興津:オートマティックに測れるというのはすごいことなんですね。

竹内:無意識のうちに血糖値は変化するのですね。

患者C:1型の場合は基礎分泌がないので、ものすごく変動するんですよ。

 

【センサーについて患者が思うこと】

興津:どんなところに現状のセンサーに関して不満を持っていますか。

患者C:絶対値とあとは変化率ですね。それをすごく知りたいです。

興津:CGMSでもそれはある程度測定できますよね。

患者B:でもCGMSは測定して1週間経って、病院に行かなければわかりませんから。リアルタイムじゃないんです。

患者A:しかも補正している。

興津:測って補正しないと分からない。あれは自分ではできないんですか?

患者C:米国のメーカーであるアボット社がつくっているFreeStyleNavigator(フリースタイルナビゲーター)というのはパッチを当てて無線で飛ばします。センサーを装着して1、2、10、24、72時間後、指先で血糖値を測り補正することが必要ですが、10時間後の補正を終了すると、数値とグラフで表示されます。しかし日本には電波法の関係で入ってきていません。ヨーロッパではすでに市場に出ていますが、米国では医療費等の関係で費用負担が難しいらしく最近になって生産停止になったようです。

患者A:アボット社のセンサーを使って、クローズドループ(持続式血糖モニターとインスリンポンプを合体させ、コンピューター制御で血糖状態に応じたインスリン量を計算し補充するシステム)の機械を使用して妊婦さんのコントロールがうまくいったという情報もありました。膵島移植は10年、20年かかりそうなので、それまでの間は、携帯型の人工膵島、外付けの人工膵島を開発していただきたいというのが私の希望です。一番ネックと言われているセンサーの部分に、竹内先生のセンサーが使えないかと期待しています。

興津:われわれの研究に期待されているのは、人工膵島のようなものですか。

患者C:そこまで自動でやってくれればいいですけど、とりあえずは低血糖、高血糖を知らせてくれるものを望みます。

竹内:プロファイル?つまりトレンドがわかるものですか。

患者C:同じ100でも、上がっている時の100なのか、水平で移行している時の100なのかによって、次の行動が変わってきます。

患者B:次の行動は患者が変えることができる、つまり対処できるので血糖の傾向を知りたいのです。

竹内:フィンガープリック(血糖測定のために指に針をさすこと)は1日4回ぐらいやっていますか。

患者C:1回しか測らない場合も、7、8回測る場合もあって、様々です。

患者B:私はだいたい4回です。

竹内:あれはQOLという点ではあまりよくないのですか。

患者B:慣れてしまうと測ること自体は苦痛ではありませんが、外出中など気軽に測定できないときがあるのが困ります。

患者C:そうですね。例えばこんな感じです。(血糖測定とインスリン注射を実演)。

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竹内:(驚きながら)本当に患者さんの実情を知ることができました。

患者一同:今日は、お忙しいところ長時間有難うございました。

 

** 研究室訪問に参加した患者さんから **

 埋め込み型血糖センサーは従来の測定方式と異なる画期的なものでメディア情報を見て興味を持っていたところ、研究室を訪問する機会を得ました。東京大学生産技術研究所はものづくりにおいてトップクラスで両先生とも自由闊達に、楽しくお話しすることができ感謝いたします。患者が日頃抱えている課題、強い思いを直接研究者に伝え、研究開発に少しでも反映して頂くことは大変有意義と考えます。ES細胞、iPS細胞による再生医療は実用化までまだかなりの年数を要すると思われます。当面、センサー、コントローラ、インスリンポンプが一体化し、血糖値を連続自動コントロールできる携帯型人工膵島の早期実用化が期待されます。このためには、埋め込み型血糖センサーを含めた信頼性、耐久性のあるセンサーの実用化が必須となります。将来的には、人工心臓のように人工膵島を体内に埋め込みできれば理想的です。
 東日本大震災のため延期されているシンポジウム(2012年3月10日開催)などを通じて患者、家族、研究者、医療者など関係者の絆を更に強めて行きたいと考えます。

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